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IMFのプログラムは、ロシア国内の債券保有者は償還期限がきたらロール・オーバーする(新発債に再投資する)ものと想定し、その際の価格がどの程度になるかが唯一の問題だ、とみていた。
政府が税金を徴収できれば、金利はやがては許容水準、例えば一五%程度に低下し、危機は終わるだろう、という読みだったのだ。
この見通しで見落とされていたのは、国債のあれほど多くの部分が、価格のいかんにかかわらず、満期になった国債をロール・オーバーできない状態にいる国内の人々に保有されていたことだった。
企業は税金の納付を迫られており、税金を払ったら国債に再投資する余裕はなかった。
もっと重大な問題は、国営貯蓄銀行のスベルバンクを除いて、銀行セクターが軒並み、借り入れた資金でロシア国債を買っていたことだった。
ロシアの株式・債券市場の下落によって、これらの銀行の大半が支払い不能となり、支払い能力のある銀行も信用供与枠を更新することはできなかった。
その結果、新規国債を買うどころか、追加証拠金を支払うために、手持ちの国債の一部を売却しなければならなかった。
ロシアの銀行に信用を供与していたのは、ほとんどが外国の銀行だったが、外国銀行のなかにも資金を引き揚げようとする動きが出てきた。
売りが殺到したドル建てロシア国債の価格は、記録的な低水準に下落した。
いまや本格的な銀行危機が進行していた。
通常、銀行危機は、中央銀行が介入して、低利の担保融資などの形で流動性を提供することによって回避される。
ところが今回の場合、IMFとの合意条件によって、中央銀行は介入することができなかった。
これが、事態を解決不可能と思われるところまで悪化させた。
八月七日の金曜日、私は休暇中のチュバイスと執務に追われていたガイダルに電話をした。
そして、「もはや末期症状だ。
たとえIMFの第二次の融資が実行されても、九月以降、政府は国債の借り換えができなくなるだろう」と言った。
さらに悪いことに、ウクライナ政府が、野村誼券がアレンジした四億五○○○万ドルの融資の返済期限が次の木曜日に迫るなか、デフォルト(債務不履行)の瀬戸際にきていた。
こうした状況では、デフォルトのリスクが大きすぎて、つなぎ融資に参加するわけにはいかなかった。
切り抜ける方法はひとつしかないと思った。
ロシア政府の資金ニーズを年末までまかなえる大規模なシンジケート(協調融資団)を組織することだ。
これは官民の連合でなければならなかった。
スヴィャズインベスト・グループも五億ドル程度なら参加できた。
しかし、民間セクターが単独で十分な資金を拠出するのは不可能だ。
私はいくら必要かと尋ねた。
ガイダルは七○億ドルと答えた。
七○億ドルあれば、国民から唯一多額の預金を集めているスベルバンクが、その保有債券をロール・オーバーできるだろうとの見通しだった。
まだ、大量の預金の引き出しは起きていなかった。
「ということは、国民の信頼を取り一戻すためには、一○○億ドルのシンジケートを組む必要があるわけだ」と私は言った。
そのうち半分は、米国財務省が管理する為替安定化基金など、外国政府の財源から調達し、残りの半分は、民間セクターから集める必要があった。
シンジケートは、IMFの第二次の融資が実行される九月に発足することにする。
シンジケートは一年物ロシア国債を、最初は年利三五%程度に設定し、徐々に一五%程度に引き下げる(現在の利回りは九○%前後)という条件で引き受ける。
このプログラムは前もって発表される。
そうすれば、国民の買いも出てくるだろう。
信頼できるプログラムが実施され、年末までに利率を二五%に下げるということなら、最初に三五%で投資するのも悪い話ではないだろう。
うまくいけば、一○○億ドルのうち、実際に使われるのはごくわずかですむ。
政府にしても、民間にしても、シンジケートを組織するのは容易なことではないと思われたが、私はやってみようと思った。
当然ながらガイダルも乗り気だった。
私は、米国財務省の国際問題担当次官デイビッド・リプトンに電話した。
リプトンは問題は重々承知していたが、財務省は為替安定化基金を使うことなど考えてもいなかった。
議会のムードは、いかなる種類の救済にも断固反対だ、と彼は言った。
私は、それは知っているが、ほかに方法が見当たらないのだ、と訴えた。
パニックが起きている今、改革路線のロシア政府を支援するのは、アメリカの国益にかなうことだった。
民間がシンジケートに参加すれば、救済は政治的にもっと受け入れやすくなるはずだ。
それでもやはり、ロシア人が直接、アメリカの議会で説得力のある状況説明を行う必要があるだろう。
また、民間からの参加といっても、参加者は投資銀行とわれわれのような投機的投資家になるはずで、大手商業銀行と違って当局の要請に簡単には応じない面々なので、メンバーを揃えるのはきわめて難しい仕事になるだろう。
あらゆる可能性を探るため、私はもう一度ガイダルに電話して、償還時に換金を希望する国債保有者から手数料を取ることはできないか、と尋ねてみた。
ガイダルは、そんなことをしたら国債の信用力が失墜してしまう、と答えた。
その通りだった。
現時点で私は、この計画が実現しなければ、政府はデフォルトに陥り、大混乱が生じると考えている。
たとえ計画が実現しても、ロシアの銀行のほとんどは破綻に追い込まれるだろう。
だが、銀行を救済しようするのは、まったくの誤りだろう。
月曜日にリプトンと少し話した。
米国政府はまだ結論を出していなかった。
リプトンは、また電話すると約束した。
火曜日にロシアの金融市場が崩壊した。
株式市場は一時、取引停止になり、国債は安値を更新した。
海外の市場まで打撃を受けた。
私が提案していた計画は、もはや実行不可能だ。
市場を安定させられるのは、最低でも一五○億ドルという、さらに大規模な救済策のみとなり、民間の投資家からの拠出は期待できなくなった。
リプトンは、私に電話しないままモスクワに向かった。
なにもみやげを持たずに行くことに苛立ちを感じていると、人づてに聞いた。
私は、「フィナンシャル・タイムズ」紙に次のような投書を送ることを決意した。
ロシアの金融市場のメルトダウン(崩壊)は、末期的段階に達している。
ロシア国債を担保に資金を借り入れてきた銀行や証券会社は、追加証拠金の支払い要求に応じられず、株式・債券市場に投げ売りが殺到した。
株式市場は、取引の決済ができなくなり、一時閉鎖され、長・短期国債の価格は急落した。
売りは一時的には吸収されたが、市民が再び銀行預貯金の引き出しに走る危険がある。
直ちに行動することが求められている。
問題は、銀行危機に対処するために必要な行動が、IMF(国際通貨基金)との間で合意された、財政危機に対処するための行動と正反対だということである。
IMFのプログラムが、通貨引き締めと緊縮財政を求めているのに対し、銀行危機は流動性の注入を必要としている。
国際支援の拡大なくしては、ふたつの要件を両立させることは不可能である。
IMFのプログラムは、長期国債にある程度の価格で買い手がつくと想定していた。
そのうえで、政府が税金の徴収と歳出の大幅削減を進めれば、金利が低下し、危機は収まるとみていたのだ。
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